今から三十年前、保育士だったヨウコさん(仮名)という女性はあるエジプト人の大学教授、アフマドさん(仮名)にふと出会いナンパされ交際することになりました。
一年後、アフマドさんはエジプトに帰国することになりヨウコさんに求婚。二人はエジプトで結婚手続きをすることに。
例えあなたがエジプト人と結婚することがないにしても、非常になかなか興味深い話が盛りだくさんです。
目次
結婚するまでにやっておくこと
日本では極端な話、男女が意気投合したら二人の保証人のサインを書いた婚姻届けを出せばそれで完了、もうそのカップルは正式な夫婦です。
しかしエジプトの場合は簡単に結婚できません。
エジプトではお父さんの発言は大きい!
エジプトの伝統的な風習と文化においては、普通は男性側の父親の許可がとても重要なものとなります。
今でもたまに息子が外国人女性を嫁にもらうのを敬遠するエジプト人の頑固な父親もいます。
ヨウコさんの場合は、たまたまアフマドさんのお父さんはすでに他界していたためすんなりと結婚できることになりました。
結婚の前には婚約を
日本では最近は婚約指輪や結納の儀式をスキップして結婚する男女も多いですが、エジプトの場合は少なくとも必ず男性が婚約指輪を用意します。
普通は純金、お金がなければシルバーや銅製のものです。
ヨウコさんもシンプルな純金の指輪を贈られました。右手の薬指にはめました。
エジプトでは婚約指輪は右手の薬指に、結婚指輪は左手の薬指にはめます。
よって婚約破棄はよくあること。婚約を日本の婚約という意味に置き換えて仰々しく考えず、むしろ相手をよく見極める重要期間ととらえましょう。
すべての結婚準備を揃える役目は男性
新居を購入し用意するのは新郎側です。
ヨウコさんの場合は、日本を去る前に大きな退職金をもらっていたのでそのお金をマイホーム購入にあてました。日本でパチンコ狂いのアフマドさんはすっからかんの身だと婚約した後に知ったからです。
しかし二人のケースは例外です。
普通はエジプトでは結婚における全ての用意を男がやらねば恥ずかしいう考えがまだ根強いからです。
結婚貯金のために出稼ぎに
エジプトでは結婚の準備をするのは男性側です。よってお嫁さんをもらうことはとてもお金がかかります。
だから結婚できない独身男性も多いのですが、一方で外国に出稼ぎに行くエジプト人独身男性も非常に多いです。
なぜならエジプトにおける平均収入は先進国の足元にも及びません。
国に残した婚約相手の女性が、自分の出稼ぎ不在中にほかの男性と結婚してしまった、だなんてよくあることです。
まずはイスラム教に入信することからスタート!
エジプトはイスラム教国家で国民の大半はモスリムです。(残りはクリスチャン)
モスリム同士の結婚が一般的
一言でモスリム(イスラム教徒)との結婚といっても、各イスラム教国家によって多少のルールが異なります。
無宗教、仏教徒、新興宗教の女性とは結婚が出来ません。
なぜならばイスラムそのものが認めている宗教はキリスト教とユダヤ教だけだからです。
ヨウコさんはあっさりとがモスリムになることを選びました。それが暗黙の常識だと分かったからです。
もっといえば生まれながらのモスリムでないと駄目だ、というエジプト人の親もいますが、最近ではずいぶん柔軟な感じになってきたようです。
モスリムになるために
外国人のイスラム教入信や改宗をする際にあたって外国人向けの宗教の学校もあります。
この女性の場合は未来の姑に毎日毎日厳しい個人レッスンを受けました。
いよいよ入信の試験を受ける際にはオールドカイロにあるアズハルモスクに出向きます。試験なのでイスラム教にまつわる問題やいくつかの質問もされます。
ヨウコさんは二回落第し、三回目にようやく合格。
つまりエジプトに到着してから実際に結婚するまで結構時間がかかったのです。
いよいよ結婚!モスリムになった後に待ち構える試練とは
周りの理解を得て女性がモスリムになり、新居の用意も整いました。いよいよ結婚です。さあどうすればいいのでしょうか。
書類手続きを済ませましょう
アズハルモスクから発行されたモスリムの証明書と日本のパスポートを持って、タハリール広場のモガンマ役所などのいくつかの役所を周ります。
ややこしいので、必ずエジプト人の彼に任せるのが常です。
アフマドさんはたった1ドルしか払いませんでした。やはり税金のことを理由にです。
ヨウコさんは「自分の価値がたった1ドル?」とびっくりしないでもありませんでしたが、彼女の場合はまあよしと受け入れました。
たった1ドルでも女性が納得すればそれでよし。
エジプトの手続きがすべて終わったら、今度は在エジプトの日本大使館に行きます。
意外とここが最大の難関です。細かい書類不備を指摘されてなかなか受理されなかった、という話も耳にします。
結婚は二種類ある!アラビア語が読めないと騙されることも
実はエジプトでは結婚には二種あります。俗に言われる法律婚と宗教婚です。
前者はまさにここでご紹介している正しい結婚ですが、宗教婚とはイスラム教においてのみの簡易式結婚です。
女性はイスラム教になり、簡単な手続きで終了。
日本大使館にこの書類を持って行っても、エジプトの法律の下における正式な結婚ではないので、日本の方で婚姻手続きは出来ません。
湾岸(サウジ、クウェートなど)のお金持ちが夏にカイロに来て、エジプト人の若い女性と簡易宗教婚をするというのはかつてよく耳にしました。
夏だけ五つ星ホテルのスィートルームや短期で借りた高級マンションに一緒に暮らすのです。
日本人女性の場合でも時々稀にあるのが、正式婚と聞かされつつ、実はその結婚が宗教婚だったというケースです。
書類は全てアラビア語なので読めないとなにも分からず騙されてしまいます。
いくら相手を愛し信頼していても、この結婚が間違いなく正しいものなのか、必ずどこかでしっかり確認を取っていた方がいいでしょう。
新婦の処女性について
さてエジプトの結婚式は夜に行われます。
お酒は出ません。コーラや甘い紅茶などです。男女別々に結婚式を行うのはサウジアラビア。
エジプトでは男女一緒に賑やかに踊り続け騒ぎます。カイロの都市部ではホテル、田舎では広場や空地スペースで式を行います。
しかし処女の新婦の誰しもが、結婚初夜に出血するとは限りません。そこであらかじめ用意をしていた鳩の血を白い布にこすりつけます。
姑が「息子が貰った嫁は間違いなく処女だった」とその赤い血で染まった布を周囲に見せびらかしていました。
大都会カイロですらもギザ地区でもちょっと前まで行われていたそうです。
遺体はナイル川に捨てたもののすぐに発覚。そして遺体解剖の結果、どうも新婦は処女だった模様。
たんにまだ処女膜がは破られていなかっただけなのですが、童貞だった新郎は早合点しカッときて「嫁は純血ではなかった」と殺してしまったのです。
法律ではこれは立派な犯罪です。しかし宗教的な見方をすると、新婦に非処女疑惑があったがゆえに起きた惨事。このケースは名誉殺人と見なされ、新婦は逮捕されませんでした。
イスラムの教えが根本にあるエジプトではいまだに保守的な考えの人々も大勢います。そのことを予め肝に銘じて日本人女性も嫁ぐ決心をすべきです。
もっとも、外国人の女性に処女であることを期待しているエジプト人男性はさすがにもういません。日本人女性イコール「おしん」とも思っていません。
ヨウコさんの場合は結婚前にすでにアフマドさんの子どもを身ごもっていたので、結婚初夜の儀式も何もありませんでした。
「婚前交渉にすごくうるさくて厳しい国だなんて、婚前妊娠した後に初めて知ったわ!」と本人は驚いていたようです。
結婚式も終わっていよいよ夫婦に
結婚式も無事に終わり晴れて夫婦になります。さあどんな新婚生活が待っているのでしょうか。
子作りは重要!子作りしないと離婚に繋がるケースも
一般的にエジプトの男性は家族をとても大事にします。
妻子を放って日曜日にゴルフに出かける、毎晩飲み歩くということはまず耳にしません。
仕事中にもまめに電話をくれるし、買い物もよくやってくれ仕事が終わればまっすぐ家に戻ってくることでしょう。台所に立ち料理をする夫も大勢います。
だいぶん前ですが、ある若い男女が結婚をし家族を築き上げるストーリーのドラマがエジプトで製作されました。
相思相愛の男女が身内にも友達にも祝福され結婚。ところがなかなか妊娠しない。夫は周りに促され、半ば強引に二番目の奥さんを持つはめになる。(夫側に問題があって子どもが授からないという発想はまったくないのがミソ)
しかし二番目の女性との結婚式を迎える夜、悩みに悩んでいた夫はやはり決意し、その結婚をボイコット。一人寂しく家にいる妻のところに一目散に戻ってあげます。
このドラマはエジプトの女性たちに反響を呼びました。子どもができなくても夫婦を継続しようとする「新しい」男性像がうけたのです。
あなたは彼と結婚前に子どもは希望するのか、欲しいけど出来ない場合はどうするのかと二人で話し合いをしていた方がいいかもしれません。
共稼ぎ?それとも専業主婦?
日本では共稼ぎがほとんどもう当たり前です。しかしエジプトでは「妻は家庭に入っていてほしい」と思う男性も大勢います。
- 外で仕事をしないでほしい
- 誰かに会いに行くときは教えて欲しい
- ショッピングに出かけるときは必ず事前に言ってほしい
- なるべく家から出ないでほしい
男性によっては「日本人なんだから日本語観光ガイドでもやれ」だのせっついてくる場合もあります。
これは明らかにあなたの得る稼ぎに期待をしている証拠です。
結婚後、妻となるあなたはずっと家だけが全世界のような専業主婦になるのか、それとも外に働きに出てもいいのか、その場合お金の管理はどうしていくのか、これも事前に見極めておきべきでしょう。
エジプト人の夫はマザコンが多い
世界中の男性に共通しているのは「みんなマザコン」。
イタリアの男性のマザコンぶりもすさまじいとよくいいますが、エジプトの男性もなんのその。みんな「ママ、ママ、ママ」。
母親も母親です。「もっと奥さんや子どもを大事にしなさい」と息子を戒めません。
息子が30であろうが40歳であろうが、べたべたし幼い子どものように扱います。
成人した息子の下着を手洗いしてあげる母親も大勢います。これに不満を持つ妻は後を絶ちません。
できることは、夫の母親べったりを止めさせることではなく(不可能ですから)、せいぜいあなたも「ママ」(姑)に可愛がられるように頑張ることです。
エジプトは一夫多妻制!その理由と問題点
エジプトの国の法律では一夫多妻を認めています。それには理由があるのですがそれはさておき、この問題をみていきましょう。
夫の浮気不倫より二番目の妻に注意!?
ヨウコさんが結婚して十年絶った時のこと。アフマドさんにまた日本の大学での教授のポストのオファー話が舞い込んできました。
「大丈夫なの。二番目の奥さんを日本から連れて帰ってくるかもよ」と日本人もエジプト人も誰もが意地悪く忠告をしてきました。
気丈なヨウコさんは「大丈夫です」ときっぱりはねつけていましたが、一夫多妻の話は実際にエジプトではちらほら起きている話です。
多くのアラブ諸国では一夫多妻が法律で認められていますが、エジプトでは一応第一夫人の許可なくして、夫は二番目以降の妻を持てない決まりになっています。
特に二番目の女性と例の宗教婚をされてしまうと厄介です。
この場合は役所からその通知が来ないので奥さんは気づきません。(たいてい誰かが密告をしてくれますが)
ある日本人女性は結婚したあとに、自分が二番目だったと発覚しショックを受けたことがあります。(のちに離婚)
ちなみに二年たって帰国したアフマドさんはむろん独りでした。
誰も一緒に連れて帰ってくることはなく、信じていたとはいえヨウコさんも胸をなでおろしました。(ただし案の定、浪費家の彼はまったくお金を貯めてこなかったとか)
一夫多妻の大変なところ!ほかの妻たちの嫉妬がすごい
「一夫多妻でもいいわ」とそれを受け入れられる日本人女性たちもいます。ただ実際はなかなか大変そうです。
同じビルなのでほかの妻たちの生活がよく気づいてしまいます。
- 「まああの人ったら第一の子どもたちにおもちゃを買ってあげたのね、なんで私の子どもたちには何もくれないの」
- 「まあ第三夫人に車を買い換えてあげたのね、ずるいわ。私も新車が欲しいわ。」
イスラムの教えでは、一夫多妻の場合「妻たちはまったく皆平等に扱うように」とあります。しかし実際それはとても難しいのです。
よくあるのが、息子を産んでくれた妻をひいきしてしまうだとか、一番若くてかわいい妻の家にばかり居ついてしまうだとか。
特に自分が倒れた時、子どもが病気になったり寂しがっているときに夫はもう一つの妻子の家にいるとなるともやもやしやりきれなくなります。
また一夫多妻はエジプトでも後ろ指をさされます。やはりそれは良くないと考えるエジプト人が大半だからです。
一夫多妻のところに嫁に行ったら、あなたやあなたたちの子どもは周囲から好奇心と同情の目で見られます。
本当に一夫多妻を受けれられるのかどうかよく考えたほうがいいのは間違いありません。
離婚と死別が起きたら!?
エジプトだって離婚は決して珍しくありません。しかし日本との違いは、日本では妻の同意がなければ離婚はできませんが、エジプトではそうではないのです。
夫一人が役所に出向き、離婚手続きを勝手に行うことができるのです。
スーパーから家に帰ったら、長いこと不在にしていた夫から離婚完了書類の郵便物が届いており、あらびっくりということもあります。
さらに夫が亡くなった場合も大変です。
夫名義の銀行貯金を引き下ろすのにも、多くの妻は夫が銀行の手続きでどのようなサインで署名しているか知らされていないのです。
それがまずネックでお金をおろせません。
また子どもがいない夫婦だと、夫名義の家に未亡人が住み続けることは難しいのです。たいてい夫側の親族に追い出されます。
下された判決は「日本人の未亡人が日本に帰国するまたは再婚するまでは、そのアパートに住み続けてもよい」というものでした。
これは画期的な珍しい判決であったため(普通はすぐに追い出されるので)、新聞でもこの裁判は紹介されたというわけです。
エジプト人と国際結婚した女性の現在は・・
ところでヨウコさんはもう60歳。
エジプトに嫁いで三十年。紆余曲折あり、今でも夫の無駄遣いには泣かされていますが、それでもアフマドさんと一緒になって幸せだといいます。
でもそのおかげで毎日ピラミッドに行って日本人のお客さんや添乗員さんたちと楽しくおしゃべりもできる。
夫が家計にしっかりしていたらきっと私は家に閉じ込められつまらない日々だったでしょう。
エジプトにいると毎日毎日奇想天外のハプニングが起きて楽しい。いつも大声を張り上げてお腹の底から笑って生きていることを実感しているわ。本当にエジプトに嫁いで良かった!」。
*この記事はあくまでも「ヨウコ」さんの友達で、実際自分もエジプトに長年住んだ主の見聞や感想を元にしたものです。よってエジプトにおける結婚及びイスラム教の入信おいては、エジプト大使館などに必ず確認してください。
素晴らしい夫婦になれるかはあなたの忍耐力次第!でも国際結婚は慎重に
いろいろとネガティブなこともご紹介しましたが、エジプトに限らずもスリムに限らず、国際結婚というのはとても慎重にならねばなりません。
しかしすべてのギャップを乗り越え結ばれれば素晴らしい夫婦になれることでしょう。
もう一度いいますが総合的にエジプトの男性は日本の男性より優しい上、家庭をとても大事にします。
日本よりエジプトの方がずっと仲がいい夫婦が多い気さえします。
ただ稀に一夫多妻だとか寝耳に水の離婚問題など起きる場合があります。それだけ気を付けてどうか日本とエジプトの架け橋になるような、理想的な国際的家庭を築きあげてください。
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